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大阪高等裁判所 昭和39年(う)837号 判決

被告人 亀井清寿

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年に処する。

但し本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

押収のわいせつ白黒映画フイルム四〇巻(当裁判所昭和三九年押第二六六号の31ないし70)はこれを没収する。

理由

本件控訴の趣意は、被告人ならびに弁護人棗田愛各作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、各これを引用する。

論旨はいずれも量刑不当を主張するのであるが、まず職権をもつて調査するに、原判決は罪となるべき事実として、被告人は宮田延寿から買受けたわいせつ映画フイルムを転売して利得しようと企て、第一、昭和三八年一月下旬頃から同年六月初頃までの間、別表のとおり、前後三〇回にわたり右買受けにかゝるフイルム合計一三一巻を販売し、第二、松本寿夫と共謀し昭和三八年四月二〇日北田策三に前同様のフイルム四巻を販売し、第三、昭和三八年六月六日被告人方自宅で前同様のフイルム四〇巻を販売の目的で所持していた事実を認定し、これに対し右第一、第二事実に刑法第一七五条前段(第二につき同法第六〇条も適用)を、第三事実に同条後段を適用するとともに、更に同法第四五条前段第四七条本文第一〇条を適用し、判示第三の罪の刑に併合罪の加重をなし懲役一年二月に処していることが判決書により明らかである。ところで右事実によると、販売ならびに所持にかゝるわいせつ映画フイルムはいずれも被告人が宮田延寿から転売の目的で買受けたものであり、判示第二の犯行は共犯者が加担しているほか判示第一の犯行と全く同様な販売行為にして、かつ、第一の犯行期間中のものであり、又、右各販売行為は僅か六ヶ月の短期間内に概ね一〇日を隔て前後三〇回にわたつて行れたものであり、しかも、原判決の証拠によると、被告人は、当初から継続してわいせつの映画フイルムを買受け、これを転売して利益を得る意思で、専ら宮田延寿から前後一〇回に分けて合計七八五本のフイルムを購入して次々転売していたもので、原判示第一、第二の行為は右一連の販売行為に当り、又、第三の所持にかゝるフイルムは当時未だ販売に至らず自宅に保管していたものであることが認められる。そうすると、本件第一、第二の各販売行為と第三の所持行為の関係は、当初から販売目的で購入された物品が次々販売され、残余が手許に保持されていたという経過にあつて、いわば一個の意思の発動に基く一連の行為にして、しかも、ともに同一の犯罪の構成要件に該当し、その法益も専ら健全な性的風俗を維持しようとするものであり、かつ、各行為が比較的短期間内に近接して行れたことにかんがみると、行為の相手方が異り、又一部に共犯者が加つたりしているが、結局各行為は包括的に一個の犯罪として刑法第一七五条の一罪を構成するものと解すべきである。果して然からば、右判示行為を各独立した併合罪として刑法第四五条前段第四七条本文を適用した原判決は、この点において法令の適用を誤つた第一の違法がある。更に、原判決は刑法第一九条第一項第二号第二項を適用のうえ、押収のわいせつ白黒映画フイルム七〇巻(京都地方裁判所昭和三八年押第三二〇号の一ないし七〇)を没収しているが、記録によると、右のうち押収番号右同号の一ないし一五の一五巻は被告人から買受け本件のため任意提出した差出人藤沢公典の、又、同号の一六ないし二五の一〇巻は同じく差出人宇治田友亮の、同号の二六ないし三〇の五巻は同じく渡辺一人の各所有であること明らかであるから、これらを犯人以外の者に属しないとして没収の言渡をした原判決には法令の解釈適用を誤つた第二の違法があると云わねばならない。そして右第一、第二の違法はいずれも判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、原判決はこれらの点において破棄を免れない。

よつて、量刑不当の論旨に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三九七条第一項第三八〇条第四〇〇条但書の規定に従い次のとおり判決する。

原判決の確定した判示第一ないし第三の行為に対し、包括一罪として刑法第一七五条(共謀の点につき刑法第六〇条)罰金等臨時措置法第三条第一項第一号を適用し、所定刑中懲役刑を選択して被告人を懲役一年に処し、諸般の情状を考慮し刑法第二五条第一項第一号により本裁判確定の日より三年間右刑の執行を猶予し、押収のわいせつ白黒映画フイルム四〇巻(当裁判所昭和三九年押第二六六号の31ないし70)は刑法第一九条第一項第一号第二項により没収することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 石合茂四郎 三木良雄 西村清治)

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